成年後見人になって、困ったこと(その2 メリット・デメリット)

2021年3月22日

成年後見制度を利用することで、判断能力が低下しても、親類縁者や専門職などの支援を受けて生活をしていける、これは本当に素晴らしいことです。

しかし、ときには、成年後見人を悩ませる問題が発生することもあります。

成年後見制度は、いまや社会的に必要不可欠な制度となっていますが、あまり表に出ないような、対応に苦慮した経験などをお伝えすることで、成年後見人(保佐人、補助人を含む。)の活動に対して、より一層のご理解をいただければ幸いです。

そもそも成年後見制度とは

判断能力が不十分で、だれかの助けを必要とする方の生活を、家庭裁判所の関与の下で、支援し、支えるための制度です。

しかし、成年後見人が何でもできるワケではありません

これらのことは、「成年後見のメリット、デメリット」の記事でお伝えしたとおりです。

制度のはざまで

成年後見人に就任すると、本人の生活状況や経済状況に応じて、主に次の方々とチームを組んで、情報を共有し、連携ながら、それぞれの専門性や役割を果たすことで、本人の生活を支え、支援することになります。

親類縁者、中核地域生活支援センター、地域包括支援センター、社会福祉協議会、民生委員、近所の方、知人の方、ケアマネージャー(介護支援専門員)、相談支援専門員、入院先のソーシャルワーカー、入所先や通所先施設の相談員など

しかし、どうしても、「だれの役割ともいえない問題」や「他の支援者には頼めない問題」、さらには、次のような問題が発生します。

・本人の経済事情などにより対応できない問題

・イレギュラーで対応が困難な問題など

実際はこんなことが

【ほとんど無報酬も覚悟】

私が受任している大体のケースが、預貯金がわずかで、収入は年金だけというものです。

就任の打診を受ける際に、本人の所持金がどの位あるのか、おおよそのことは教えてもらえます。

しかし、就任して調査を始めると、その情報が事実と全く異なっており、実は債務超過状態(借金まみれ)であることが判明することがあります。

この制度上、原則として、成年後見人の報酬は本人の資産から、家庭裁判所が決めた額(本人の生活に支障のない範囲で決定されます。)をいただくこととなっています。

しかし、資産が殆どなく、借金があり、収支が赤字であれば、無報酬を覚悟しなければならないこともあります。

親族としてではなく、専門職として、成年後見人に就任している(業務として受任している)ので、それでは困ってしまいます。

大体の自治体では、報酬助成制度を整えており、別途、申立をすれば一定額の報酬をいただけるようになっています。

成年後見業務は、基本的には、辞任ができず、本人が死亡するまで支援が続きますので、とても長い期間の活動となります。

それでも、報酬助成制度内でいただける報酬額での活動を覚悟しながら、支援を続けていかなければならないことが多くあります。

【本人からの頻繁な電話、催促】

本人が独居の場合、定期的に日常生活費を渡しにいくことになります。

しかし、本人は判断能力が低下していて、渡した額を、すぐに使い切ってしまうことがあります。

「これは、いつまで分のお金です。」と言って、紙に書いて説明し、渡しても、理解することが難しいのです。

その場合、土日だろうが、深夜早朝だろうがおかまいなしに「金が足りない。金がなくなったから持ってきてくれ。持ってこないなら、タクシーに乗ってこれから取りに行く。」と、電話が鳴り続けることがあります。

定期的に一定額のお金を渡し、それ以上のお金は基本的に渡せないことを理解してもらい(収支管理をし、生活に支障が生じないようにするため)、安定した信頼関係が築けるまで、長い期間を要することがあります。

【捜索願と身柄の引取り】

本人が独居の場合、突然、どこかに行ってしまい行方不明になることがあります。

季節、天候、時間などは関係ありません。

大抵の場合、訪問介護員(ヘルパー)から、「いま、訪問に来たけど、本人がいない。」と急に電話がかかってきます。

成年後見人といっても、いつでも対応できるわけではありません。

しかし、命の危険には変えられません。

すぐに自宅まで行って、よく行く店や知人宅など、心当たりのある場所を探したり、その店の方やや知人の方に、本人を見つけたら連絡をして欲しいとお願いをしたりします。

すぐに本人が見つかればよいのですが、見つからない場合もあります。

季節や天候によっては、一刻を争う場合もありますので、急いで、警察に捜索願を出すことになります。

そして、雨の中、竹藪の中でずぶ濡れになっている状態で見つかったことや、スーパーの駐車場でうずくまっている状態で見つかったこともありました。

しかし、次の日も、その次の日も、見つからず、何の手がかりもなく過ぎていくだけのこともあります。

あるケースでは、捜索願を出した結果、本人がかなり遠方で見つかりました。

23時過ぎ、警察署から、「本人を保護したから、すぐに迎えに来て欲しい。」と電話が入ったのです。

疲れ切っていたし、成年後見人が自分の車に本人を載せることはできないし(事故があった場合には責任問題が生じるし、車から脱走されたり、運転中に首を絞められたりすることがあります。)、ましてや、本人の資産状況からしてタクシー代なんて払えば、すぐに生活に支障が出てしまいます。

警察には、「明日の朝、始発の電車で行くけれど、どうしても11時位になってしまう。」と、何度言っても駄目です。

警察は、「寝泊まりさせる場所ではない、食事の提供もできない、すぐに迎えに来て欲しい。」の一点張りです。

何とか、翌朝、車で迎えに行くことにして了解を得ましたが、本人をタクシーに乗せて、自分の車と並走して帰ってきたとしても、また自宅に戻ってもらうというワケにもいきません。

そして、何より、不測の事態(タクシー運転手の首を後ろから絞めてしまう)が生じないとも限りません。本当にそのようなことがあるのです。

幸いにも、担当の介護支援専門員(ケアマネージャー)の方が非常に協力的で、本来の担当業務ではないにもかかわらず、都合をつけて一緒に迎えに行ってくれました。そして、帰りは本人と一緒にタクシーに乗ってくれ、無事に帰ってくることができました。

しかし、それですべて解決というワケにはいきません。

また、行方不明になる可能性が高いため、早急に自宅ではない生活の場を確保しなければならないからです。

そのため、すぐに支援関係者に連絡をして集まってもらい、今後の対応を検討しました。

そして、なんとか入所できる施設を見つけることができました。

本人曰く、「電車に乗って揺られていると何だか安心して、気持ち良くなって、寝ちゃうんだよね。でも、知らない場所に着いたら雨が降っていて、どこにも寝る場所も、食べ物もなくて、寒くて死ぬかと思った。」とのことでした。

【犬猫の多頭飼育、遺体(死体)の処理】

支援している方の中には犬や猫を多頭飼育している方がいます。

当然、避妊施術や予防(ワクチン)接種などはしておらず、家の中と外との出入りを自由としていることが殆どで、一体、何匹いるかも、それぞれの特徴も分かりません。

それでは、条例などで求められている「多頭飼育の届出」もできません。

家の中に一歩入るだけで動物臭、糞尿などの異臭がしますし、畳の上も、布団の上も、どこもかしこも犬や猫に占領されて汚れています。

ときには、犬猫が玄関先や家の中で死んでいるのを発見することもあります。

犬猫の遺体の処理まで訪問介護員(ヘルパー)には頼めません。

衛生上の問題もあるため、季節などによっては早急に対応する必要があります。

しかし、本人の収支状況が厳しくて必要となる費用が払えない方も少なくなく、また、急ぎの対応が必要なことが多いので、誰にも頼めません。

犬猫は苦手で、ましてや死んでいるとなればなおさらのことなのですが、意を決して対応にあたることになります。

【困難な遺産分割協議に翻弄された】

本人が相続人となった場合、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議や死後事務をする必要が生じることがあります。

他の相続人が率先して対応してくれれば助かるのですが、親類縁者とは疎遠である本人の配偶者が亡くなった場合、成年後見人が手続きを進めることになります。

「戸籍調査、財産調査、口座の凍結、役所への届出、携帯電話の解約、水道光熱費の引き落とし口座の変更」など、しばらくの間はそれらの手続きで手一杯の状態となります。

もちろん、他の支援者や専門職に依頼できればいいのですが、諸費用などの実費すら出せず、そもそも専門職への報酬なんてとても払えない経済状態の方が殆どです。

なお、数十年来にわたって連絡を絶っている共同相続人(甥や姪)と遺産分割協議をするとなると、ほぼ間違いなく、法定相続分を主張されてしまいます。

その場合、亡くなった方の預貯金が少ないと、主張された法定相続分の額を支払うためには、自宅を売却しなければならなくなることがあります。

それはまさしく一大事です。

高齢者や認知症を患っている方は、環境の変化への対応が難しい上、入所できる施設がすぐに見つかるとは限りません。極力避けなければならないことです。

このケースでは、遺産分割協議に踏み切れない事情があると判断し、家庭裁判所に事情を詳細に記載した上申書を提出しました。

遺産分割協議を、当面見送りたいと申し出たのですが、書類送付の数日後、書記官に電話をした結果、家庭裁判所の回答は、次の通りでした。

「すべての相続財産を本人が相続できるように遺産分割協議をして欲しい。」

その回答に、絶●しました。

上申書を出した事情や記載した内容を再度、電話で説明しましたが、詳細は把握していただいておらず、「先送りはよくない。本人が全て相続できればすむ話だ。」という程度にしか、理解、把握していただけていないと思えました。

これまでの経験上、疎遠で顔も合わせたことがない相続人に、相続財産があると知らせた場合に、「私は1円も要りません。」と言ってくれるなんて、まず望めないことです。

結局、「遺産分割協議を持ちかけたら寝た子を起こすことになる。間違いなく自宅を失うことになる。自宅を失ったら施設入所となるが本人の精神状態(行動)では集団生活は限りなく無理に近い。そもそも施設入所のための面接を受けた時点で断られる可能性が非常に高い。それでも、どうしても遺産分割協議を進めるという回答しかいただけないのなら話を進めるけれど、責任は持てない。」と交渉をし、当面の間、遺産分割協議を見送ることとなりました。

しかし、解決策はいまだ見つからず、事実上、放置してしまっている状態です。

まとめ

成年後見制度は「社会的に必要不可欠な制度」となっています。

成年後見人の職責を果たすには、就任当初、予想だにしなかった問題に直面することがたくさんあります。

また、いつなんどき、緊急の連絡がくるのではないかと、気の抜けない日々の連続です。

それでも、たくさんの成年後見人が、日々、直面する問題を解決しようと頑張っています。

成年後見人の活動に対して、より一層のご理解をいただければ幸いです。

注意事項

実際には、この他にも様々な法律上の規定がありますが、分かりやすくご説明するために、上記の記述(内容)は、それらをあえて考慮せず、簡略化してあります。