生命保険と相続

2021年2月10日

死亡保険金や解約返戻金は相続財産になるのか?

生命保険は、残された遺族の方のために加入し、「契約者=被保険者=保険料負担者」が夫で、「受取人」は妻や子、というケース(下記の①のケース)が多いと思います。

その場合、夫が死亡すると、死亡保険金は、民法上、妻の(固有の)財産となり、相続財産とはなりません。

つまり、遺産分分割の対象とはなりません。

しかし、下記の②や③のとおり、“掛け捨てでない”生命保険の場合で、「契約者」が「被保険者」より先に死亡した場合保険のかけ方(契約内容)によっては、相続財産となることがあります

つまり、遺産分割の対象となることがあります

①【契約者(夫)】・【被保険者(夫)】・【受取人(妻)】の場合で、夫が保険料を負担していた場合

この場合、夫が死亡すると、死亡保険金は、民法上、妻の(固有の)財産であり、相続財産とはなりません

②【契約者(夫)】・【被保険者(妻)】・【受取人(夫)】の場合で、夫が保険料を負担していた場合

この場合、夫が死亡すると、被保険者が死亡したわけではないので、死亡保険金を受け取る権利は発生しません。

この場合は、解約返戻金を受け取る権利が発生します。

また、契約内容によっては、満期保険金を受け取る権利が発生することもあります。

下記の通り、「名義変更(契約者の変更)」をすることもできます。

そして、この解約返戻金などは、夫の財産であり、相続財産となります

※これらの権利は「生命保険に関する権利」といい、夫が死亡した日の、解約返戻金の額で評価することとなります。解約返戻金の額が分からない場合は、生命保険会社へ照会すれば教えてもらうことができます。

③【契約者(夫)】・【被保険者(妻)】・【受取人(子)】の場合で、夫が保険料を負担していた場合

この場合も、②と同じように、夫が死亡すると、解約返戻金などを受け取る権利が発生します。

そして、この解約返戻金などは、夫の財産であり、相続財産となります

相続財産とならなくても「持ち戻し」の対象となることも

上記の①の事例のように、死亡保険金が相続財産とならない場合でも、その金額によっては、「受取人」が「契約者」の相続人であった場合、他の共同相続人との間で、著しい不公平が生じる場合があります(たとえば、死亡保険金が8,000万円で、相続財産が1,000万円しかない場合など)。

その場合、「保険金の額や、保険金の額の相続財産の総額に対する比率などを総合的に考慮して、特段の事情があるとされる場合は、死亡保険金は“特別受益(※1)”に準じて“持ち戻し(※2)”の対象となる。」とした判例があります。

※1「特別受益」:生前贈与や遺贈(遺言による贈与)によって相続人が得た利益のことです。

※2「持ち戻し」:相続人間の平等を図るため、「特別受益」として得た利益を、相続財産に戻し入れて、精算する制度です。

ここからは、少し、込み入った説明となりますが、問題になりそうなことや、解決をする方法などを順番に説明していきます。

Ⅰ.しかし、故人が、何かしらの思い入れや特別な事情などがあって、特定の相続人を保険金の受取人と指定したにもかかわらず、「持ち戻し」の対象となってしまうことは、故人の意に沿わないことになってしまいます。

そのような場合は、「持ち戻しの免除」をしておくことで、解決できることがあります

「持ち戻しの免除」の方法については、法律上、決まりはありませんが、相続人の間での無用なトラブルを防止するためには、「遺言書」に書いておく、または、少なくとも書面化して、その意思をハッキリと示しておくことが重要です。

.なお、「持ち戻しの免除」をしておいても、”遺留分(※3)”を侵害している場合には、「遺留分」が優先します

そして、他の相続人が、「遺留分侵害請求権」を行使した場合、その侵害額に相当する金銭の支払いをすることが必要となってしまいます。

※3「遺留分」:一定の範囲の相続人に最低限保証された財産の取り分であり、その相続人が最低限主張できる相続分のことです。

そのような場合、「遺言書」に遺留分侵害請求権を行使しないように、そして、特定の相続人に死亡保険金を受け取らせることにした事情などを、“付言事項(※4)”として書いておくことを検討してみてください。

※4「付言事項」:例えば、家族への感謝の気持ちや、遺言書を書いた動機や理由、残された家族への願いなど、法的の遺言事項ではない内容のことです。法的な効力はありませんが、それらを書いておくことで、被相続人の意思を尊重してもらいやすくなり、相続人間の無用な争いを避けられることが期待できます。

法定の遺言事項

認知、未成年後見人・未成年後見監督人の指定、相続人の廃除や廃除の取消し、祭祀に関する権利承継者の指定(明文の規定はないが解釈により認められている)、相続分の指定や指定の委託、特別受益の持戻しの免除(明文の規定はないが解釈により認められている)、遺産分割方法の指定や指定の委託、相続開始から5年を超えない期間での遺産分割の禁止、相続人相互間での担保責任の分担、相続財産の全部または一部を処分すること、遺言執行者の指定や指定の委託、一般財団法人の設立、一般財団法人への財産の拠出、遺言による信託の設定、生命保険及び傷害疾病定額保険における保険金受取人の変更(H22.3.31以前に締結された保険契約を除く)

ただし、「遺留分」は、法律で、相続人の権利として認められているものであって、遺言書でも、遺留分を否定したり、遺留分侵害請求権の行使を禁止することはできません

また、「付言事項」には、法的な効力がありません。

よって、遺留分侵害請求権を行使するかどうかは、結局、相続人の判断次第ということになります。

相続財産となる場合は「名義変更(契約者の変更)」に要注意

上記の②や③の事例のように、解約返戻金などが相続財産となる場合、生命保険会社から言われるままに、生命保険の「名義変更(契約者の変更)」をしてしまうと、故人に借金(負債)があった場合でも、相続放棄や、限定承認ができなくなってしまうことがあります

つまり、借金をかぶってしまうことになります。

私が受任した、遺産分割協議書の作成業務でも、次のようなことがありました。

その保険契約は、上記の②のケースと同じように、「保険契約者(故人)・被保険者(故人の推定相続人)・受取人(故人)」となっていました。

しかも、「被保険者(故人の推定相続人)」が異なるだけの、保険契約が何本もありました。

そして、契約者の死亡後、すぐに生命保険会社の担当者が、それぞれの被保険者の自宅まで訪ねてきて、「名義書変更(契約者の変更)をしましょう。」と言ってきたそうです。

当然、それぞれの被保険者は、いきなりのことで困惑しましたが、「すべての保険料が払い終わっていて、その保険の名義をあなたに書き換えることができる。契約者と被保険者をあなたにして、受取人を妻か子にすれば、あなたに万が一のことがあったとき、家族を助けられる。」と説明され、担当者に言われるまま、手続きを進めてしまいました。

私が、相続財産の調査を始めた時には、すでに、それらすべての名義変更(契約者の変更)の手続きが始まっていましたが、各相続人に了解いただいた上で、生命保険会社に連絡をとって手続きを一旦ストップしてもらい、その上で、遺産分割協議などの手続きを行いました。

税法上は別の扱いとなることも

この記事の冒頭で説明した、上記の①の事例のように、死亡保険金が相続財産とならなくても、税法上は“みなし相続財産(※5)”として相続税の課税対象となることがあります。

※5「みなし相続財産」:本来の、民法上の相続財産ではありませんが、税法上、相続財産と同じ扱いをされる財産のことです。

生命保険金の他にも損害保険金や退職手当金・功労金などがあり、一定の非課税限度額(500万円×法定相続人の数)があります。この非課税限度額を超えた部分は、他の相続財産と合算して、相続税の計算をすることとなります。 なお、相続人でない方が受取人である場合には、非課税の適用対象とはなりません。

思わぬトラブルを避けるために

このように、せっかく保険をかけたとしても、指定した「受取人」にすべての死亡保険金を受け取らせてあげられないなど、想定外のことになることがあります。

そのようなことにならないためには、保険のかけ方、そして、保険金の額や相続財産の総額などとのバランスをよく考えて保険をかけるか、専門家に事前に相談することを検討してみることが必要です。

注意事項

実際には、この他にも様々な法律上の規定がありますが、分かりやすくご説明するために、上記の記述(内容)は、それらをあえて考慮せず、簡略化してあります。